今日は縁側で一傘(イルサン)の骨を拭いていた。
「ちょいと、もっと優しくやっておくれよ」
「動くからだろ、じっとしててよ」
拭きながら、前から気になっていたことを聞いてみた。
「ところでさ、一傘って本当はなんて名前なの」
一傘はしばらく黙っていた。
それから「さあねぇ、もう忘れたわ」とだけ言って、勝手にくるりと回った。
僕ははぐらかされたようだ。
契約したあの夜、傘から引き剥がした時にも真名を尋ねたけれど、答えなかった。
だから僕が新しく名を付けて、それでずっと過ごしてる。
何で自分の名前を言いたがらないんだろうって思い、
そのあと名前のことを少し調べてみた。
昔は「真名(まな)」とか「諱(いみな)」といって、
本当の名を隠しておく決まりがあったらしい。
本当の名を口にされると、その人の霊のところまで支配されてしまうと、
みんな本気で信じていたんだって。
だから諱は「忌み名」でもあって、親や主君以外の人が呼ぶのは、
ずいぶん無礼なことだったそうだ。
へぇ、なるほどな、と思った。
新たに付けた名前より、真名の方が強制力が強いのだろうか。
僕が付けた名は、僕がその者に新たな役割を与えて決めたものだ。
でも真名は、生まれたときからその者を指している。
それを連綿禄に書き入れてしまったら、僕はきっと、
今よりずっと深いところで一傘を縛ることができてしまう。
真名を尋ねるというのは、要するにそういうことなんだよな。
一傘が答えないのも無理はない。
昼下がりに、黒ごま団子を提げて来た玄也にその話をしたら、
串をくわえたまま、けろっとした顔で言われた。
「俺の名前か。玄也でいいよ、遠慮はいらねぇ」
「……いや、そういう話じゃなくて」
「そんなに俺の真名が知りたきゃ、教えてやってもいいけどよ」
玄也の目が、いたずらっ子のようにニヤいていた。
ここは一旦引くのが吉とみた。
それにしても本当の名前を預けるっていうのは、とんでもない信頼なんだと思う。
……ということは、僕はまだ、一傘にそこまで信用されていないわけだ。
じゃぁ、どうしたら教えてくれるんだろう。
真正面から尋ねてみたところで、たぶんまた「さあねぇ」で終わる。
……いや、待てよ。
片っ端から呼んでみたら、当たったときに返事をするんじゃないか。
「骨蔵」
「違う」
「めめ助」
「やめろ」
「ぼろ吉」
「やめておくれってば」
むー……明日はもう少し、当たりそうなところから始めようと思う。
理玄 🎋
x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x=x
今日の日記に付き合ってくれて、ありがとうございました。
もし面白かったら、♥を押したり拡散をしてくれると
僕はすごく嬉しです!
そして、よかったら手紙も受け取ってくれませんか?
メール登録してくれた方には、表の日記には書けない
「少しだけ踏み込んだ話」も、時々手紙に添えて送りたいと思っています。
もっと深く僕たちの世界を知りたい方は、ぜひ登録しておいてくださいね。
